MTE 5 小児科開業医に役立つ漢方の知識
田代 眞一(昭和薬科大学病態科学研究室)

小児科診療において、漢方薬の果たす役割は日々大きくなっている。しかし、まだ、漢方薬の有効成分や作用機序に関する知見が十分でないために、活用しきれていないところがある。漢方薬に対する現代薬理学的な知見から、小児科の臨床に貢献したいと考え、以下のような課題についてお話し、考え合いたいと思う。

風邪などに対して、麻黄を含む薬、例えば麻黄湯や葛根湯、桂麻各半湯が良く使われている。麻黄や附子のように、少量で激しい作用を呈するアルカロイドを含む漢方薬を投与する場合には、速く効かせたいのか、有害作用を落としたいのかによって使い方が異なる。アルカロイドの吸収はpHに依存するため、速く効かしたいときにはできるだけ多くの白湯などに溶かして与えることが望ましい。一方、作用が強すぎる場合には、少量ずつ分服させると良い。中和剤を含む胃薬などと併用すると、作用が強くなる。小児の場合には少ないと思われるが、顆粒のままで服用させると作用は複雑になる。

漢方薬の有効成分の多くは、糖の結合した配糖体である。糖が付いているために水溶性が高く、リン脂質でできた細胞膜を越せず、吸収されないものが多い。こうした化合物は、主に盲腸で腸内細菌叢によって糖が切り取られ、アグリコンとなって脂溶性が高まって吸収される。しかし、脂溶性が高まったアグリコンは、乳汁に移行することが分かっており、また、脳血液関門や胎盤も通過する可能性がある。臨床的にも実験動物でも問題は起こっていないので、伝統的な使い方をする限り心配する必要はないが、母体に投与した漢方薬の成分の児への移行があることは理解しておきたい。

小児に五苓散が注腸投与されている。経口投与では糖が取れないと吸収されなかった配糖体が、注腸では入ることが分かった。直腸投与は、吸収の個人差を乗り越えたり、速く効かせるための新しい投与法となる可能性がある。

このほか、漢方の作用と薬用量や、漢方薬の味や香りを嫌がる子への投薬の工夫などについても考え合いたい。

【年次集会事務局からのヒトコト:略歴】

1947年 京都市生まれ。富山大学薬学部卒業。富山大学大学院薬学研究科修士課程、京都大学大学院医学研究科博士課程修了。薬剤師、医学博士。国立京都病院内分泌代謝疾患センター臨床研究部主任研究官を経て、現在、昭和薬科大学病態科学研究室教授。現在、乳房文化研究会会長、国際植物療法協会会長、日本アロマセラピー学会副理事長、地域薬局医療薬学会顧問、日本アロマ環境協会顧問、国際天然薬物と消化管エコロジーシンポジウム事務局長、天然薬物研究方法論アカデミー世話人、日本未病システム学会理事、日本臨床中医薬学会理事、日本東方医学会学術委員、和漢医薬学会監事・評議員、日本TDM学会評議員、日本疫学会評議員、呼気病態生化学研究会評議員などとして活動中。