MTE 3 小児の急性中耳炎の治療法をめぐって−小児科医が耳鼻科医に聞きたいこと−
寺本 典代(寺本耳鼻咽喉科医院)

中耳炎は小児が頻繁に罹患する炎症性疾患で、とりわけ0〜2歳の低年齢児に多くみられることから、耳鼻科医のみならず小児科医が臨床の第一線で対応することが多いと考えられる。近年、小児の中耳炎の難治化、重症化が論議されているが、開業医と勤務医では、扱う中耳炎の病態に差異があると思われる。病院にはひとにぎりの難治例が繰り返し受診することが多いが、一度きりで繰り返さない中耳炎や、医療を必要とするまでもなく自然に軽快する中耳炎は、開業医の臨床で数多く経験する。当院の統計では、中耳に貯留液を継続せず速やかに改善する中耳炎が約70%を占め、残る30%は比較的長期間中耳に貯留液を伴うが、その70~80%が3~6ヶ月以内に治癒し、3〜5年遷延するものは耳疾患全体の5.5%、小児受診者全体の2.5%である。長引くように見えても、半年以上遷延する中耳炎は中耳炎全体の約5%であり、3〜5年の長期に遷延するものは非常にまれであると言える。本講演では、耳鼻科開業医が日々の外来で扱う小児の中耳炎の、一般的な臨床像について解説する。

また、近年、耐性菌の存在を中耳炎の難治化の原因として捉える論文が多々渉猟されるが、開業医の臨床では耐性菌が検出されても、かならずしも難渋せず比較的簡単に治癒する中耳炎や、耐性菌を保有しつつ無症候で経過する中耳炎をしばしば経験する。当院では、肺炎球菌が検出された小児の中耳炎で、PRSPの占める比率は0歳(77.8%)、1歳(29.4%)、2歳(16.7%)と、0歳が他の年齢層に比して著しく高い。それらは、0歳の保育園児もしくは、保育園児からの兄弟間感染が濃厚な症例であり、耐性菌と0歳保育との密接な関連が窺われるが、0〜1歳の難治例においても改善率は、半年以内で改善(48.7%)、1年以上継続(19.3%)、2年以上継続(6.7%)であり、多くは3歳を過ぎると著明に改善し、同時にPRSPの検出率も低下している。

さらに、本講演では、開業医10名のヒアリング調査をもとに、小児の中耳炎の最近の動向についても報告する。抗生剤の選択、鼓膜切開の適応、滲出性中耳炎の治療方針とチューブ適応など、各医師が小児の中耳炎に取り組む『考え方』についてヒアリングした結果、この10年、とりわけここ数年で、小児の中耳炎の病態が大きく様変わりしていることが理解された。例えば、点滴入院、鼓膜切開、チューブ留置術を要すると判断される中耳炎は15〜20年前に比べて10分の1以下に激減し、小児の中耳炎の軽症化が窺われた。最前線の医療現場で開業医が日々感じる、小児の中耳炎の様変わりについても報告する。