MTE 10 口から育つこころと身体−新生児から小児までの子育ち支援−
佐々木 洋
(UTAKA DENTAL OFFICE佐々木歯科・
昭和大学歯学部口腔衛生学教室兼任講師・東京医科歯科大学口腔保健学科非常勤講師)

乳児期には哺乳による満腹感と抱擁による幸福感の繰り返し体験から基本的信頼感が形成され、幼児期に家族や集団で食べ物を分かち合うことから他者との関係の理解や「よろこび」の共有などの社会性が生まれます。外界との相互作用の作動する「口」は,こころを育む栄養の取り込み口でもあるのです。こうした「口」からは、育児の楽しみと同時に悩みもうまれるので、保護者からの相談のテーマとなることも多いと思います。あるいは支援職種が身体や病気だけでなく身近な「食べる」や「話す」を話題にすれば、生活実感に富んだ健康創りに役立ちます。このように、「口」の働きや発育を切り口にした育児支援には、生活者との接点に富んだ明るい展望がみえています。

情報過多の二極化した現代の子育て事情のなかで、保護者は安直な育児のエビデンスを求めています。また施政者や産業界にとっても、経済理論を背景としたエビデンス(数値目標)が唯一の指標です。しかし子どもの成育状況はすべて異なるので、大量の情報と個別状況の不一致に悩まされます。情報共有はできても共感できず癒されないのです。

健康創りの主体は生活者です。一方、少子社会で私たち医療従事者が担うのは、個々の生活背景やライフステージに沿った支援の協働ではないでしょうか。ところが「口」に関しても、「母乳育児とむし歯」「指しゃぶりとかみ合わせ」などの例に見られるように、職種間で異なる見解が保護者に混乱をもたらしている事実も否定できません。

乳幼児期に目覚しい成長・発達を示す「口」は、大きな個体差のある器官です。また、出会った子どもや家族の生活背景も支援者の顔もそれぞれ異なります。だからこそ、「口」を取り上げると、ひとり一人の子どもが主役となれる舞台の演出が可能だともいえるでしょう。子どもの成育を支援する多様な職種間で支援マインドを共有するために、MTEでは乳幼児の「口」についてお話ししたいと思います。

【年次集会事務局からのヒトコト】

 「他科に聞きたいシリーズ歯科」は口と発達についてです。なお「子育て」ではなく、「子育ち」で、誤字ではありあません。