教育セミナー  ウイルス性下痢症の最近の話題 
牛島 廣治(東京大学発達医科学)

わが国では乳幼児がウイルス性下痢症で死亡することは少ないが、発展国では依然として死亡が多い。発展途上国では細菌性下痢症による死亡が抗生薬使用で減少してきたことから、ウイルス性下痢症、特にロタウイルスによる死亡の割合が増加してきた。
感染経路が不明にもかかわらず民主的な病気と言われるようにわが国でもどの子どもも感染する。
診断では電子顕微鏡による1972 年のノロウイルスの発見、1973 年のロタウイルスの発見から下痢症ウイルスの疫学、臨床研究などが始まった。現在では、免疫学的方法や遺伝子学的方法で診断が容易になってきた。わが国ではノロウイルスのELISA キットが昨年から市販され、イムノクロマト法による迅速診断も間近となった。ロタウイルスの診断法の開発と比べるとノロウイルスの場合は困難なことが多かった。
分子疫学的手法により、血清型・遺伝子型、遺伝子配列を決めることが出来、その地域・年での変動がわかるようになってきた。
しかしながら、感染の伝播のメカニズムには不明なことが多い。下痢症ウイルスは、単に腸管で感染が起きるだけでなく、多臓器にウイルス感染が起きることがわかってきた。
ロタウイルス感染症の重要性からロタウイルスワクチンが開発されてきた。現在、RotaTeq とRotarix が世界でライセンスを獲得してきている。またロタウイルスワクチンを独自に開発している国もある。しかしながらわが国でのワクチン開発や2 社のワクチンの野外試験は遅れている。わが国におけるロタウイルスワクチンの海外からの導入に関する皆様のご意見を聞きたい。
最近、施設内でのノロウイルスによる集団感染、死亡例の報告が増えてきた。予防に向けた教育、行動の必要性がある。ノロウイルスの事例に対する対処に関しても皆様と話し合いたい。