教育セミナー 3 安全な予防接種をめざして 
及川  馨(小児科・内科 及川医院)

定期予防接種の普及とともに罹患や死亡が激減し、ありふれた疾患でも 経験しなくなってきた。流行が下火になると予防接種を受けなくても罹 患しないとか、万一罹患しても現代の医療なら容易に助かるのが当たり 前かのような都合のよい錯覚や誤解をもつようになる。麻疹で死ぬとは 知らなかったというような貧弱な医学知識しか持っていない親も多い。

一方接種する医師の方ではワクチンの改良により副反応が減少してきた 結果、ワクチンの副反応はアレルギーなどの特殊なケースのみ注意を払 えば事足りると安易に考える医師も存在する。接種後健康被害のリスク は、ワクチン自体より接種医の「うっかりミス」等の比重が高くなって きていると考えておくべきである。

人は誰でもミスを犯す可能性があるが、常に事故対策を怠らないことが 重要となる。ごくまれに起こる重篤な副反応は予測ができないため、不 測の事態を常時念頭におきながら、迅速な対応ができるように心の準備 と救急体制を備えておくべきである。万一、予期せぬ接種事故が起こっ たときには、必要な処置を行うとともに、不信感をもたれないように誠 実に対応することである。それには接種するワクチン自体への知識とワ クチンで予防すべき疾患に関して普段から学んでおくことが必要となる が、どこの地域でも研修会に参加しないで自己流のやり方を続ける接種 医が問題になっている。

先進国では命を大切にすることや予防可能な疾患でワクチンが有効なも のにはできる限り積極的に接種を推進するのが国民の常識になってい る。安全な予防接種を実施する上で、過去に経験された事故、日常のあ りふれたケアレスミスの事例等から、安全な予防接種を行うにはどうす ればよいか、各自が考え工夫していただきたい。